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那覇家庭裁判所 昭和59年(少)3423号 決定

少年 M・S(昭四一・七・四生)

主文

この事件については、審判を開始しない。

理由

一  本件交通事件原票の記載によれば、M・Sと称する者は、昭和五八年一一月六日午前三時ごろ、那覇市○○○××番地○○相互銀行○○支店付近道路において普通乗用車(沖××す××-××)を無免許で運転したとの道路交通法違反保護事件で昭和五九年三月一二日当庁に事件が送致された。

二  よつて判断するに、本件一件記録、那覇警察署長作成の「援助依頼に対する回答書」及び当庁家庭裁判所調査官○○○○作成の調査報告書を総合すると、本件送致にかかるM・S少年は山梨県内の高校に入学し、昭和五八年四月二日以降同県内に転居し、本件事件発生当時も同県内に居住し、来沖した事実はなかつた。しかるに本件無免許運転はM・S少年の兄であるK(昭和四〇年六月一日生)が同人の友人であるAから借りた普通乗用車を無免許で運転し、友人を探しに行く途中警察官の検問にあい、無免許運転で検挙されたのであるが、同人は昭和五八年七月二三日少年院(交通短期処遇)を仮退院し、保護観察中であつたため、自己の無免許運転が発覚されると立場が不利になると考え、とつさに当時県外に居住していた実弟Sの名及び生年月日を警察官に偽つて申告し、更に身許確認のためS少年宅まで同道した警察官に気付かれないようにK少年はその母に対して「お願いだから僕がSであると警察官に言つてくれ。」と頼み込み、母親をしてその旨警察官に対して語らせ、身柄引請をしてもらつたものであること等が認められる。

そこで当裁判所は、昭和五九年四月一九日那覇警察署長に対し、本件送致にかかる交通事件原票に押捺されたM・S名下の指印とK少年にかかる当庁昭和五九年(少)第三七六五号道路交通法違反保護事件の記録中、K少年の司法警察員に対する供述調書の末尾に押印された同少年名下の指印の対比方を依頼したところ、両指紋はいずれもK少年の左示指指紋に符合することが判明した。

三  以上の事実を総合すると、本件交通事件原票に記載されたM・Sは同少年の実兄であるKによる詐称であることが認められる。そうであれば、M・S少年に対しては本件送致にかかる道路交通法違反保護事件についての非行事実は存在しないこととなる。

よつて本件については調査の結果審判に付することができないので、少年法一九条一項に従い、主文のとおり決定する。

(裁判官 中村透)

〔参考一〕 援助依頼書及び回答書

昭和59年少第3423号    日記 発第89号

援助依頼書

那覇警察署長 殿

下記少年に対する保護事件について審判のため別記事項につき援助下さるよう、少年法第16条第1項によりお願いします。

少年 M・S 昭和41年7月4日生

住居 那覇市字○○××

昭和59年4月19日

那覇家庭裁判所

裁判官 中村透

依頼事項

回答

文通事件原票No.149936の指印と当庁59年少第3765号Kの供述調書に押捺の指印とは同一かどうか

交通事件原票No.149936のM・S名下の指印と貴庁59年少第3765号Kの供述調書に押捺の指印とを警察本部刑事部鑑識課巡査部長○○○○に確認させたところ同一の指紋であると断定した尚両指紋は警察本部刑事部鑑識課に保管されている昭和58年3月21日作成那覇署第230号のKの左示指指紋に符合するとのことであつた

上記のとおり回答します。

昭和59年4月19日 那覇警察署長

〔参考二〕 調査報告書

那覇家庭裁判所 支部

裁判官 中村透殿

昭和59年4月20日

同 庁

家庭裁判所調査官 ○○○○

昭和59年少 第 3423号 少年 M・S

上記少年に関し,下のとおり調査したから報告します。

日時 昭和59年4月20日

陳述書 K

少年との関係 実兄 職業

場所 那覇少年鑑別所 住居

1 陳述者は昭和40年6月1日生れで少年の実兄である。当庁昭和59年 (少)3765号交通保護事件で鑑別入所中の者である。

2 昭和58年11月6日那覇市字○○○××番地付近道路で、友人であるAから借りた乗用車を無免許運転し、友人をさがしに行く途中に検門にあい、無免許運転で検挙されたので、弟の名前をうその申告し、身許確認のため警察官同道の上、陳述者宅に行き、陳述者は58年7月23日に交通短期少年院を仮退院し現在保護観察中のため、無免許で検挙されると大変なことになると考え、母に対してお願いだからSであると云つてくれと頼みSであると云わせ、身柄引請をしてもらつた。

3 本件当時弟のM.Sは沖縄にはいなかつた。

弟のSは58年4月に山梨県の高校に入学し、当時高校1年在学中で、現在も山梨県在住で高2在学中である。

以上。

〔参考三〕 交通関係事件意見書〈省略〉

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